ONCE UPON A TIME IN THE WEST
1968年。監督セルジオ・レオーネ。主演クラウディア・カルディナーレ。ヘンリー・フォンダ。チャールズ・ブロンソン。音楽エンニオ・モリコーネ。
セルジオ・レオーネのマカロニ監督作なのであった。ドル箱3部作を終えてアメリカのギャング映画を撮ろうとしていたレオーネであったがスタジオはもう一本ウエスタンを、という要求に屈して撮った作品である。マカロニとは思えない豪華な出演陣であった。当然のことに映画もマカロニとは思えないスケール感に溢れている。さすが大御所レオーネである。
大御所ゆえに「続・夕陽のガンマン」の三人を贅沢にも冒頭のやられ役三人衆に起用しようと目論んだとの噂だが、実現はしなかった。さらに満を持して登場のヘンリー・フォンダが空港に現れたとき、想定外の老化の進行度に驚愕しレオーネはパニックを起こしたという。
で、こんな話さ。
子ども三人連れの男に嫁いだが嫁いでみると新しい家族がいきなり全員殺されてしまった東部の女性ジルが西部で生きていくため逞しく成長していく話と、やたらとハーモニカを吹くのでハーモニカと呼ばれる男の復讐劇が絶妙に絡みあって進んでいく。
冒頭、ギーコ、ギーコと風向計の軋む音だけが響く駅舎で三人のダスターコートの男たちが所在なく佇んでいる。長い。男たちは誰かを待っているようだが、このシーンがとてつもなく長い。緊張感に押しつぶされそうになったところで汽笛が鳴り響き、到着した汽車から男が現れる。そして線路を挟んで対峙する三人の男たちと一人の男。
ぎゅーん。
ここだけでこの映画は勝利を掴んだのだ。
唐突に西部の町にひとり放り出されたジルに、三人の男たちが絡んでいく。ジルが持つ土地を狙うフランク、フランクを狙うハーモニカ、ジルを気にするシャイアン。
鉄道が通り、町が形成されていくという正に西部開拓史の過程に、一人の女性と三人の男の群像劇を絡めているというわけだ。
壮大である。鉄道と共に西部へやってくるのは秩序と近代化の波である。そこに無法者の居場所はなかった。そこに西部劇というジャンルの幕引きを重ねるように、レオーネはニコラス・レイの「大砂塵」をはじめ過去の名作ウエスタンの引用を散りばめている(実際にアイデアを出しているのはベルナルド・ベルトルッチらしいが)。
それにしても配役が凄い。いったい誰が主役なのか、という顔ぶれなのであった。まあ誰でもいいんだけど、やはりクラウディア演じたジルになるのだろう。
新しい家族を失い一度は東部へ帰ろうとするも夫になるはずだった男の意志を継ぐ決心をして強くなろうとする、マカロニには現れなかった女性なのであった。
もちろんヘンリー・フォンダもいい。いきなり女子供をぶっ殺す鬼のような悪い男を演じてアメリカでは不興を買ったようだが、さすがヘンリーである、見事な悪党ぶりなのであった。
さらにはペキンパーの「砂漠の流れ者」や「墓石と決闘」のジェイソン・ロバーズ。悪党一味のボスだが話のわかるいい奴で、ジルが踏み出す一歩を手助けする憎い悪党だ。
レオーネ生誕90年・没後30年を迎える今年、9月27日に「ウエスタン」のオリジナル全長版が遂に日本劇場初公開される。タイトルも「ワンス・アポン・ア・タイム」で。だからこの記事もそのようにしました。生きててよかった、なんてことをこんなときに思ったりする。
それじゃあ読者諸君、毎日は愉しいだけじゃない。哀しいだけじゃない。では失敬。