片手にドーナツ、心に花束

西部劇、マカロニウエスタン、ときどきアメコミ。

【弾丸を噛め】


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BITE THE BULLET

1975年。監督リチャード・ブルックス。主演ジーン・ハックマン。音楽アレックス・ノース。

ジーン・ハックマンといえばレックス・ルーサーなのであった。違うか。「許されざる者」でもいい味だしてた。いや、いくらでもある。「ミシシッピーバーニング」とか。でも男ならこれだ。ハックマンのベストはクレイトンだ。そう、クレイトンは最高なのだ。男なのだ。カッコよすぎるのだ。最初から、馬を届ける約束の時間に遅れるのを承知で母馬に死なれた子馬を助けるのである。男のやさしさ全開で始まるのである。で、さらにはジェームズ・コバーンである。まあ、ジェームズ・コバーンが出てれば間違いない。大抵は間違いない。スピーク・ラーク。
で、こんな話さ。
馬による大陸横断レース。それだけだ。

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映画「弾丸を噛め」より

用心棒も賞金首も保安官も出てこない異色の西部劇だ。実は大陸横断したのかどうかもよくわからんが、どこから出発してどこがゴールなのかもよくわからなかったが、700マイル、すなわち1120キロを走破する過酷なレースなのできっと大陸横断だ。ジョジョの第7部の元ネタといわれている映画だ。もちろんアメリカ大統領がラスボスだったり、聖人の遺体を収集したりするわけではない。スタンド使いもいない。正直、レースの細かなルールが不明でどうすれば勝ちなのかいまいちわからず緊迫感がない。だが、そんなことはどうでもいいのであった。

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映画「弾丸を噛め」より

タイトルである「弾丸を噛め」とはどういうことか。実際に映画の中でレース参加者の一人であるメキシコ人が、ライフルの弾を加工した被せものを虫歯の治療に使う。で、ようはどのような困難が立ち塞がっても、男なら弾丸を噛むように歯をくいしばれ、みたいなことのようだ。実際にレースには様々な障害が待ち受けている。それぞれがそれぞれの事情を抱えてレースに挑むのである。熾烈な優勝争い、というよりは人間ドラマに重きを置いているのでレース本来のカタルシスというのはあまりない。大掛かりなレースのわりには参加者も少ないし。でもいいの。

↓弾丸を歯に詰めてます。

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映画「弾丸を噛め」より


とりわけいいのはベン・ジョンソン演じる老カウボーイ。南北戦争では敗軍となり、様々な仕事をしたがどれもいまひとつ、誇れるものが何一つないまま死ぬのは悔しすぎると、名声と賞金のために参加する。病気の体に鞭を打って。だが志半ばで死んでしまう。死に直面しても、最後の男の矜持は捨てず、クレイトンにだけ看取られてそっと死んでいく。ここから、レースに参加しながらも勝敗には無関心だったクレイトンの心境に変化が見えてくる。

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映画「弾丸を噛め」より

西部劇ではお約束のおバカなテンポの若者、若いカーボもいい。レーススタート前夜にお痛をするカーボをクレイトンとマシューズがタッグを組んでフルボッコにするところは爽快である。だが無知で世間知らずで無鉄砲で尊大なカーボもレースを通じてクレイトンにどつかれまくって成長していく。知識を得て、心を開いていくのである。好きだなあ、こういうわかりやすいやつ。

↓失禁しそうなほどカッコいい夢のタッグ結成!

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映画「弾丸を噛め」より

嗚呼、それにつけてもジーン・ハックマン。西部劇だと「さらば荒野」、「クイック&デッド」などではかなりクレイジーな役を演じているが、ここでは動物を愛する熱く優しい西部の男を熱演している。すごい、すごすぎる。ゴール直前、ばてた馬をいたわりながらゴールするクレイトンは涙なしでは見られない。

20世紀に突入し近代化が進み、西部開拓時代を生きた男たちは時代の波に取り残されそうになる。それに負けじと馬を激走させるのだ。彼らの意地とプライドとやさしさは、いわゆるフロンティアスピリッツというやつはひとつの時代が終焉を迎えようとも決して失われることはなく、次の新しい世代へと受け継がれていくというわけだ。これだからウエスタンはやめられないのである。

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映画「弾丸を噛め」より

それじゃあ読者諸君、毎日は愉しいだけじゃない。哀しいだけじゃない。では失敬。