RED RIVER
1948年。監督ハワード・ホークス。主演ジョン・ウェイン。音楽ディミトリ・ティオムキン。
ハワード・ホークスの二大傑作西部劇のひとつである。もうひとつはもちろん「リオ・ブラボー」である。西部劇は大雑把にいうと開拓史と保安官ものの二つのジャンルがある。ハワード・ホークスはこの二つのジャンルで映画史に残る傑作をつくったわけである。「赤い河」が開拓史で、「リオ・ブラボー」は保安官ものというわけだ。
で、こんな話さ。
牧場を経営するダンソンは、南北戦争の敗北で不況の南部からミズーリ州への1600キロの距離を牛10000頭を大移動させることにした。
これは「赤い河 D」の物語である。
今回はやさしくラストのオチに触れているので知りたくない人は読まないでね。
豊かな土地を見つけたダンソン、いきなりここは今日から俺の土地だ、と決めてしまう。
いいのか?それが開拓者というものなのだろうか?言ったもん勝ちなのだろうか?
なかなか強烈である。強引に自分の土地を得たダンソンはそこに牧場を開き牛を育てるわけである。
だが14年後、南北戦争の影響で牛が売れなくなり、売れそうなミズーリへと牛を大移動させることにしたのだ。
キャトルドライブというやつである。
キャトルドライブは過酷である。生半可な気合いでは無理である。なのでダンソンは、絶対にリタイアしない、という条件の元に誓約書にサインさせて仲間を募集したのである。
長年苦楽を共にしてきたグルートや、養子のマシューなどを連れ、ダンソンはキャトルドライブをスタートさせた。
とにかく牛の大移動の映像は圧巻である。さすがに10000頭はいなかったようだが、それでも大迫力の画である。
気分はもうカウボーイ。とくに途中アクシデントで牛たちのスタンビート(暴走)が起こるシーンは凄い。スタンビートを引き起こした理由も凄い。ひとりの男が夜中にこっそり壺の砂糖を盗み食いしようとしてガラガラがっしゃん、物音をたててしまったことで牛が暴れたのだ。なんて日だ!
というわけで予想どおり、キャトルドライブはとても大変だった。
最寄りのカンザス州のアビリーンって町に鉄道が通ったらしいよ、との噂を耳にするもあくまで噂なので、ダンソンは耳を貸さずに当初の予定どおりの厳しいルートから逸れることを許さない。
本当にアビリーンに鉄道が通ったかどうか行ってみなくては真偽はわからない。パソコン通信もスマホもない。SNSで情報を共有できるわけではない。行ってみて嘘だったら時間の無駄である。
でもみんな披露困憊していた。帰りたいな、って思ってた。でもダンソンは許さない。誓約書にサインしたよな、と。
きゃっ。
逃げようとした奴は射殺。俺が聖書を読む、といっては埋葬。その繰り返し。新選組の副長土方並の恐ろしさで規律を維持するダンソンだが、さすがに理解者であったグルートも、育ててもらった恩もあり従いつづけていたマシューもドン引き。
見てるこちらも、うわ、ってなるくらい。
砂糖を舐めて牛のスタンビートを引き起こした男に対して、馬車の車輪にしばりつけて鞭打ちにしたる、などと息巻いたりもう完全にヤバい人になってマシューたちはもう無理、となった。
ここからキャトルドライブ映画というよりも、義理ではあるが親と子の物語となっていく。
マシューはクーデターを起こすのである。義父であるダンソンに銃を向け、俺らアビリーンに行くから、ってルート変更するのだ。もちろんみんなマシューについていく。
誰も味方のいないダンソンは荒野に置き去りにされるのである。
それもそれで酷いと思うのだが、ここからマシューたちは仲間を雇って追いかけてくるであろうダンソンにビビりながらのキャトルドライブである。
夜営中にちょっとした物音でビビりまくるのだ。
途中、大移動中の移民かなんかの集団がネイティブに襲撃されてるのを助けたマシューたち、マシューはそこでミレーという女性といい感じになる。
このミレーが後半戦のキーマンで、唐突に現れたミレーによって事態はとんでもない方向に向かうのである。
まあ「とんでもない方向」というのは見ているこちら側にとって、ということなのだが、ある意味サプライズである。河原で殴り合ったヤンキーの夕焼けみたいなラストだ。
なんだったんだここまで。
ダンソンに雇われた男たちも、なんか俺ら必要ないみたいだね、と思ったことだろう。
マカロニウエスタン通過後の鑑賞だと、あまりにも爽やかすぎる幕切れに、男っていいな、親子っていいなとは素直に思えなかったのである。
でも面白い。
頑固、というよりは狂気に近いダンソンを見事に演じたジョン・ウェイン。あまりお上手とは思えなかった彼の可能性を引き出したハワード・ホークス監督の手腕が光る。
おそらく1日ももたないだろうが西部開拓時代に生きてみたかった、幌馬車に乗りてー、などと空想している頭の悪い僕なんかは、用心棒や賞金稼ぎの話ももちろん好きだが、このような開拓ストーリーもたまらないのである。
それじゃあ読者諸君、毎日は愉しいだけじゃない。哀しいだけじゃない。では失敬。
↓同じくキャトルドライブを題材にしたカウボーイ映画。