UN DOLLARO TRA I DENTI
1967年。監督ヴァンス・ルイス。主演トニー・アンソニー。音楽ベネデット・ギリア。
これといって特徴のないマカロニウエスタンである。台詞の少ない演出が特徴といえば特徴たが、さほど効果があるようには思えない。
まあ、最大の弱点は主人公のストレンジャーがあまり魅力的ではないことなのだった。誠に残念である。けれども作品としては不思議と嫌いではない。それでいいじゃないか。
で、こんな話さ。
騎兵隊を騙して奪った金を取り合うアメリカの賞金稼ぎとメキシコの山賊たちの醜い争いである。
ストレンジャーがやって来たメキシコの村は廃村のような村なのであった。壊れたマネキンのように路傍にしゃがみこむ村人が点在していて、活気がないなあ、嫌だなあ、などとストレンジャーが思ったのかどうかは知らんが、彼らは屍なのであった。
あ、などと動揺することもなく、ストレンジャーは「よそ者は出ていけよ」とか恫喝してくる酒場のオヤジを酒瓶で殴り殺すという暴挙に出るのである。
とくに悪いことしてないのに。さらには勝手に酒場の二階の宿に落ち着くのである。横暴にもほどがある。現代ならSNSで拡散され炎上である。
さすがマカロニウエスタンである。
ただ、やはりストレンジャーがあまりステキな主人公ではない。着用しているシャツも昔の肌着みたいで変な色だ。
どこからともなくメキシコ軍と怪しげな覆面の集団が現れ、と思ったらメキシコ軍は覆面たちに皆殺しにされてしまうのだった。
何が起きているのかさっぱりわからない。台詞が極端に少ないため、余計にわからない。
するとストレンジャーはいつの間にか騎兵隊の制服に着替えていて、覆面たちのボス、すなわち山賊の頭領アギラとの交渉にのぞむのであった。
山賊たちは皆殺しにしたメキシコ軍に成りすまし、アメリカ政府がメキシコに貸与する金貨をちょろまかしたろ、と画策していたのだ。
この村は金貨の受け渡しの場だったのである。
それをどこで知ったのかストレンジャーは、僕は金貨を運搬してくる騎兵隊の指揮官ジョージを知ってます、さらにはあなたがニセの大尉であることも存じてます。黙っててあげるから分け前をよこせと言い寄るのであった。
またしても横暴である。まあ、騎兵隊の指揮官とは知り合いでもなんでもないのだが、無事に金貨をぶん取ることに成功したのであった。
でも当然のように素直に山賊どもから分け前など頂けるわけもなく、ここにストレンジャーと山賊の欲におぼれた醜い争いの火蓋が切って落とされるわけである。
どっちもどっちなので、どちらかに肩入れするわけでもなく、フラットな視線での鑑賞を強いられるのがこのマカロニのよろしくない点かもしれない。
たまったものではないのが、ストレンジャーが山賊から逃げる際に不法侵入で入り込んだ家のヤンママで、おかげで山賊には拉致される、かわいい坊やとは引き離されるなど大迷惑なのであった。
でもなんだかんだでストレンジャーに協力するのであった。いい人である。
争いが片づいたらそれなりの関係性に発展するのかと思ったが、ならなかった。
ストレンジャーは、じゃ、って去って行った。
その生き様がクールだぜ、とは思わなかった。
まあ、ヤンママ以外にどれくらい町に生き残りがいるのか不明なので、ここに残ってもなあ、と考えてしまうのは当然だろうが。
徹底的に台詞を削り落としているが、必要なところではべらべら喋ってくれるので置き去りにされることはない。
というかストーリーはシンプルだし尺も短めなのでその辺の心配は無用だ。
金貨を奪ったり奪われたり、逃げたり追いかけたりの連続で、銃撃戦は悪くない。
でも同じロケーションでアッチに行ったりコッチに行ったりなので奥行きを感じない。最後は最初に出てきた騎兵隊が金貨奪還のために戻ってくるのだが、あろうことかストレンジャーは賞金首の山賊どもを全滅させたのだから賞金ぶんの金貨半分もらうから、などと言って去って行くのである。
やり手である。
しゃあねえなあ、ってなる騎兵隊もどうかと思うが。
それじゃあ読者諸君、毎日は愉しいだけじゃない。哀しいだけじゃない。では失敬。